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管楽器のように歌う

本日の練習では、The Beatlesの『Penny Lane』に歌詞が入りました。

やはり歌詞が入ると、音名読みやリズム読みで歌うのに比べてぐんと雰囲気が出ます。

 

歌詞の練習には、アメリカで長年暮らしていらっしゃったJ崎さんがお力を貸してくださいました。

まずは歌詞を一文ずつ、先にJ崎さんが読み上げて、続いてみんなで真似して言ってみる。それから段落ごとにまとめてメロディを付けて歌ってみる、のような感じで練習していきました。

まるで英会話のレッスンのようでした。

ネイティヴの方がいらっしゃると心強いですね。

J崎さんのように流暢に歌えるようになるにはまだまだかかりそうですが、早く“英語で”歌えるよう私も練習を頑張ります。

 

そんな『Penny Lane』の練習にて指揮者の先生の仰ったお話が、今回の記事のタネになりました。

 

バスパートのスキャットを整理していた時のことです。

アカペラで歌うこの曲はバスがスキャットで伴奏を担当しており、それが「bm ba dm dm dm」という“歌詞”から始まるのですが、この“歌詞”が楽譜の一部にしか書かれておらず、続きを歌おうにも何と言って歌ってよいか分からないので歌えないという事態が前回の練習で発生しました。

そこで、今回の練習までの間に先生がどの音符で何と歌うかを整理しようとされたのですが、結局それは無しになり、今回以降は子音を敢えて決めないでやることになりました。

その理由として、そもそもスキャットの頭に付いている子音はリズムを出すためだけのものなので子音をはっきり出す必要は無いこと、それを全部決めて楽譜に書いて覚えて間違えないように歌うというのはまったく無駄な労力であること、を挙げていらっしゃいました。

さらに、子音だけでなく母音も曖昧にするように指示されました。

そういえば、以前の練習でも、女声の「doo doo」というスキャットに対して「このスキャットの『d』はどうでも『d』でなければいけないような類のものではないから、子音を立てる必要はない」というようなことを仰っていました。

 

これを聞いて、なんだかタンギングみたいな話だなぁと感じました。

タンギングとは管楽器の奏法のひとつで、舌を使って音の立ち上がりや切り方を制御するものです。

 

また、先生の言葉をきっかけに普段私がどのようにスキャットを歌っているか振り返ってみたところ、管楽器を吹くように歌っているなと再確認しました。

 

管楽器でタンギングするように歌うといっても管楽器をやっていらっしゃらない方には何のこっちゃ抹茶に紅茶な話かと思いますので、まずは私がどのようにタンギングしているのかを書こうと思います。

 

なお、ここでいうタンギングはクラリネットのタンギングです。

私は中学・高校と吹奏楽部でクラリネットをやっていたので、これが最もイメージしやすいからです。

 

クラリネットはものすごくおおざっぱに言えばリコーダーの仲間で、リコーダーのように縦笛の吹き口(マウスピース)を咥えて演奏します。

ただしリコーダーとは違って吹き口にただ息を吹き込むだけでは音は出ません。

マウスピースに取り付けたリードと呼ばれる薄い板を息で振動させて音を出します。

リードはマウスピースを咥えた時の下唇側に取り付けます。

演奏中は口の中にマウスピースが突き出しており、リードと舌が対面している格好になります。

 

クラリネットのタンギングは、このリードに舌を軽く触れさせることで行います。

舌を触れさせると言っても、力を入れてぎゅうぎゅう押し付けたり、広い面積をべちゃっとくっつけたりはしません。

舌は力を抜いて、リードに触れるか触れないかの境目くらいの軽さで、舌を“リードに当てる”というよりも舌を“リードから離す”つもりでやります。

 

このとき舌の触れる位置は、もし楽器を咥えていなければ子音の「t」を発音するあたりに来ます。

そのせいか、タンギングを文字で表すときには(たとえば楽器を咥えずにリズム読みするときとか)、「トゥ」(tu)で表すことが多いです。

とはいえこれはそんなに厳密なものではありません。

私は「トゥ」派ですが、人によっては「ティ」(ti)を使う人もいますし、基本は「トゥ」を使うけれども柔らかいタッチにするときは「ドゥ」(du)や「ル」(ru)を使うという人や、基本は「ティ」を使うけれど速いリズムでは「リリリ…」(li li li...)を使うという人もいます。

これらは無意識的になんとなく使い分けているので、合唱の歌詞みたいに楽譜に書き込んでその通りに間違えないようにやるという類のものではありません。

そもそも楽器を吹きながら「この音符は『トゥ』と言って次のは『ル』と言うぞ」なんていちいち考えたりしませんし。

このへんは、先生の仰っていたスキャットの子音を楽譜に書くのは無駄というのに通ずるかなと感じます。

 

タンギングはいつやるかというと、フレーズの頭と、フレーズの中の音の切れ目で行います。

音の切れ目とは、フレーズをマルカートで吹くときや同じ高さの音が続くときの音符と音符の境目、それからフレーズ中にある短い休符などです。

 

フレーズを吹き始めるときは、次のような手順で行います。

まずブレスをします。

次に、狙った音の出せるような口の形(アンブシュアと言います)を作って楽器を咥え、舌をリードに触れます。舌を触れる位置は先程述べました。

舌がリードに触れた状態で(楽器の中に息が入らない状態で)、お腹から息の圧をかけます。このときまだ音は出ません。

ここまでが音を出す準備で、これを楽譜上で音を出すべきタイミングよりも前に完了させます。

あとは、音を鳴らし始めるべきちょうどのタイミングで舌を離せば音が出ます。舌を離した瞬間が音の鳴り始めです。

このへんは合唱と同じですね。楽譜上の歌い出すべきタイミングよりも前にブレスをして歌う顔を作っておいて、(語頭の子音を言った後)音符の頭ちょうどのタイミングで歌詞の母音を発音するのにだいたい対応していると思います。

 

フレーズの中で行うタンギングは、音の切れ目のところで舌をリードに触れることにより行います。

音符が連続している時は舌の触れるのはほんの一瞬です。

舌を触れる位置はフレーズの頭のタンギングで触れる位置と同じです。

タンギングするときの息の使い方も、フレーズ全体をスラーでひとつながりに吹く場合の息の使い方と全く同じです。

違いは舌が動くか動かないかだけです。

舌を動かす間に息を止めたりはせず、お腹から流し続けます。

 

フレーズの中に短い休符があってもこれと同様ですが、ひとつ大事なことがあります。

それは、休符の間に息の圧を減らさないということです。

休符の直前の音符の終わりで舌をタンギングの位置に持っていって音を切ったら、その舌の位置と、音符を吹いていた息の圧を休符の間じゅう保ちます。

すると、これはフレーズを吹き始めるときの音を出す準備が完了したときと同じ状態になります。

あとは次の音の始まるちょうどのタイミングで舌を離してやりさえすればスムーズに次の音を歌うことができます。

 

こんな感じで私はクラリネットを吹いていましたが、合唱でスキャットを歌う時もだいたいこれに対応した感じで歌っています。

スキャットの母音は楽器の音が鳴っているのに相当します。

子音はタンギングで舌をリードに触れることです。

ひとフレーズをスラーで切れ目なく歌うつもりで母音を鳴らし、それ崩さないように、フレーズの立ち上がりと音の切れ目で子音を入れます。

たとえば、楽譜で「doo」(ドゥー)と指示されたスキャットの場合、「oo」(ウー)と歌うつもりで顔を作ってお腹から息を流しつつ、舌を「d」の子音の位置にセットして息の流れを遮って準備をしておいて、音を出すべきタイミングで舌を離せば、何も考えなくても勝手に「doo」の音になっているはずです。

短い休符をはさんで「doo, doo」と並んでいる場合も同様で、ひとつめの音符の終わりで舌を「d」の位置に持っていって息の流れを遮り、休符のあいだ舌の位置とお腹の息の圧をキープして、次の音符の頭で舌を離せば、取り立てて「d」の子音を発音しようとしなくても自然と「doo, doo」になるはずです。

練習中に指揮者の先生が、スキャットの子音はリズムを作るためだけのものなので子音を立てる必要は無いと何度も仰っていましたが、おそらく先生が仰りたかったのはこういうことなのではないかと思います。

 

ただ、ここまで述べてきた歌い方と少々毛色の違うのが、今回の話の発端にもなったバスの「bm ba dm dm dm」というスキャットです。

これに対して私の持っているイメージは管楽器のタンギングではなく、弦楽器のピチカートです。

低声部であるバスの歌うスキャットの場合は、弦楽器のなかでも特にウッドベースでやるそれが思い浮かびます。

「bm ba dm dm dm」の「m」のハミングは楽器の胴の中で響きが鳴り続けているイメージ、「b」や「d」の子音は弦を指ではじくイメージです。

ただし、息の使い方や子音を発音するタイミングは管楽器のタンギングと同じだと思っています。

管楽器風に歌うスキャットでは、フレーズの間じゅう息を流し続けて母音を鳴らし続け、タンギングのように舌で息の流れを束の間遮ればそれが子音でした。

同様に、弦楽器風に歌うスキャットでは、フレーズの間じゅうハミングを鳴らし続けます。

そして指で弦をはじくように息で唇をはじいたり舌で前歯の裏をはじいたりしたら、それが文字でいうところの「b」や「d」に相当する音だった、というイメージです。

「bom」や「dun」あるいは十六分音符で「ba」と言う時の「o」や「u」や「a」は唇や舌をはじいた時の一瞬開いた口から漏れ出た響きなので、はっきりした「o」「u」「a」の母音でなく当然曖昧な母音になります。

 

と、ここまで長々と書いてきましたが、これらの歌い方はあくまで私が勝手に抱いているイメージなので、もしかしたら次の練習で「それは違うよ」と先生に言われてしまうかもしれません。

が、スキャットを歌う際の何かしらのヒントになりましたら幸いです。

 

by ふーみん

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混声合唱団ノイエ・カンマー・コール

 

<今日練習した曲> 

♪ Lerchengesang(Felix Mendelssohn)

♪ Zigeunerleben [流浪の民](Robert Schumann)

♪ 春の風(大中恩)

♪ Michelle(John Lennon and Paul McCartney)

♪ Can't buy me love(John Lennon and Paul McCartney)

♪ Penny Lane(John Lennon and Paul McCartney)

 

 

<会場>

神戸学生青年センター(〒657-0064 兵庫県神戸市灘区山田町3丁目1−1)