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発声の旅

うまく歌えるようになりたいと思って、声楽を習っています。先生は、オペラや演奏会で活躍されている方で、重要な本番の前は「のどを休めます」という理由でしばしばレッスンがキャンセルになります。私の方も何かと忙しいので、それがかえってありがたく、習い始めて3年半になります。

 

自分が歌いたい曲を先生にみてもらうやり方ですが、持っていくのがヴェルディなどのオペラアリアの大曲ばかりなので、いかに声を響かせるかが大きな課題になります。

 

先生宅のレッスン室は吸音材が張り巡らされていて、恐ろしく響きません。歌っていてあまりに手応えがないので力んでしまい、ますます響きが落ちてしまいます。通い始めたころ、思わず「この部屋は歌いにくいですね」とこぼすと、先生は壁を指して「このパネルは何のためにあると思いますか」とおっしゃいます。レッスン室には、先生が出演したオペラの舞台写真が何枚も飾ってあります。

 

「これを張ってあるのは、私がナルシストという理由だけじゃないんですよ。皆さんの声が響くよう、反響板代わりにしてるんです」。そんなお茶目なところもある先生です。

声を響かせるポイントは、下腹でしっかり支えて、あごは脱力し、常に一定の息を軟口蓋に流し込む―それに尽きます。言うのは簡単ですが、まずあごの力を抜くのがとても難しい。息を流す感覚もつかめず、「息が止まってますよ」とたびたび指摘されます。先生は「きっとできるようになりますよ。いつかは分かりませんが」と励まし(?)てくれます。

 

今年のノイエのクリスマスコンサートでは、少しだけソロを歌わせてもらいます。先日、練習の録音を聞いてみましたが、いつも指摘されているような欠点が目立ちました。本番までに、なるべく修正できればと思います。

 

私と声種が同じなためか、先生はときどき修業の苦労話をしてくれます。昔はあなたのように力んでいたとか、高音をスムーズに出せるようになるのにどれだけ苦労したか、など。私が持っていった曲を、「これは大学院の卒試で歌ったんですよ」となつかしがったり、「いい曲ですね」と言ってリサイタルで取り上げたりしたこともありました。当然、私にとってはまたとない手本になります。

 

ある日のレッスンで、高音がうまく出ず、どうすればいいか尋ねたことがあります。先生は「あなたが思っているよりも、ずっと薄く当てる感じです」とおっしゃいます。「息を減らすということですか」と私が問うと、「そうではありません」と先生。「前の方に当てるのですか」「いいえ、まんべんなくです」

 

私が困惑した表情になったのを見て、先生はおっしゃいました。「私たちの発声の旅は、一生続くのですよ」

 

「私たち」という言葉に感激しました。自分なりのペースで、これからも歩みを進めてみようと思います。

 

by のぶ


混声合唱団ノイエ・カンマー・コール

 

<今日練習した曲>

♪ Kyrie(Marc-Antoine Charpentier)

♪ Gloria(Marc-Antoine Charpentier)

♪ Sanctus(Marc-Antoine Charpentier)

♪ Agnus Dei(Marc-Antoine Charpentier)

 

♪ Personent Hodie(Will Todd)

♪ We Three Kings(Will Todd)

 

<会場>

日本キリスト教団 神戸雲内教会(〒657-0051 神戸市灘区八幡町1丁目6-9)