· 

「青」と「ほうれん草」

南海放送に「一句一遊」という俳句番組があります。選者は夏井いつきさんで、昨年20周年を迎えた人気番組です。2週ごとに番組に寄せられる投句は、句数ではとても掌握しきれず、今やプリントアウトした紙の重量でカウントされています。遂に10kgを越えたそうで、自分が買うお米の重さと同じかと思うと、これを2週おきに選句する選者の力量に敬服します。

その「一句一遊」ですが、昨年の12/11の放送では、兼題「青」に対し、こんな秀句が登場しました。「青」の文字を句のどこかに読み込むという、「一字詠」という課題です。

 

歌われぬ歌たち冬の青空へ     梵庸子〔東京都〕

 

“コロナのせいでいろいろ中止になった、それらすべての2020年の「歌われ」なかった「歌たち」への思い“という、選者のコメントが付きました。いろんな歌があり、いろんな立場がありましょうが、この方も合唱をされているのかしらと強く共感しました。「歌われ」なかった「歌」を青空に昇華させるという発想が、年の瀬にふさわしいと思います。

 

NHKラジオの「文芸選評」も、1週おきに俳句と短歌が取り上げられる番組です。こちらは選者が毎回変わりますが、今年2/26の放送は俳人の神野紗希さんによる、兼題「菠薐ほうれん草」の回でした。番組の中で紹介された句に、次のような作品がありました。

 

歌のない日の鉛筆と菠薐草     さ青〔愛知県〕

 

「ほうれん草」は日常的な明るさを持つ、春の季語。「鉛筆」は、木のぬくもりがあたたかい筆記用具。芯の柔らかさも心地よい。「歌のない日」の寂しさを埋めてくれるものとして、それらが句の中に取り合わされています。これが万年筆と薔薇の組み合わせでは、大仰になってしまうでしょう。ささやかなことがうれしい日常、背伸びしないしあわせ。なにもかもがうまくいくわけではないけれど、その中にも身の丈に合った形で春は近づいてくる、そんなところがいいなと思いました。

 

ノイエ・カンマー・コールとして集まって歌うことができなくなって、1年以上が過ぎました。待ちに待った練習再開が来月には叶いそうで、「歌のある日」が戻ってくること、再び集えることをほんとうにうれしく思います。手探りでの新しい一歩ですね。ノイエの二度目の創立記念日かもしれません。

ウイズコロナの日々であることには変わりなく、まだまだ慎重さが求められる中、ひたひたと世界中に歌声が戻りますように。集まって歌う「歌のある日」の歓びが、世界中で句材になりますようにと願います。

 

by ボン・ヤ・リー


混声合唱団ノイエ・カンマー・コール